内容説明
「寺地さんの作品の中で、一番好きです」原田ひ香さん
ぼくたちは、夜を歩く。眠れない夜に。不安な夜に。静かで、藍色で、心細い。でも歩かずにはいられない。そんな夜に。
「一緒に歩かない?」
会社員の實成は、父を亡くした後、得体のしれない不安(「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。特に夜に来るそいつを遠ざけるため、とにかくなにも考えずに、ひたすら夜道を歩く。そんなある日、会社の同僚・塩田さんが女性を連れて歩いているのに出くわした。中学生くらいみえるその連れの女性は、塩田さんの娘ではないという……。やがて、何故か増えてくる「深夜の散歩」メンバー。元カノ・伊吹さん、伊吹さんの住むマンションの管理人・松江さん。皆、それぞれ日常に問題を抱えながら、譲れないもののため、歩き続ける。いつも月夜、ではないけれど。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
431
夜に集まった5人の老若男女の仲間たちが、ひたすら歩いて散歩をする話です。互いの抱える問題に干渉したりせずに只々ひたすら歩く。幸せの形なんて人それぞれで決まったゴールやこれが正解、この道を選んだら駄目なんてものはなく全てに自分で答えを出して前へ前へと進んでいく。自分ひとりじゃないんだって思えることが、それだけで生きる上でのいい影響を与えてもらえているのでしょうね。いつまでも同じではいられずいつかは変化が訪れるけれど何も遠慮する必要もないし暫くしたら再び5人で散歩して欲しいですね。#NetGalleyJP 2025/01/27
うっちー
272
ありふれたようでありふれていない人間関係ドラマでした。2024/09/19
のぶ
272
父の死をきっかけにモヤッとした不安を抱える實成とひょんなことから一緒に夜の散歩をすることになった同僚とその同僚と同居する少女、元カノと元カノの住むマンションの管理人。人はみんなそれぞれに、多かれ少なかれ悩みや不安、問題を抱えていて、日々折り合いをつけながら過ごしているのだと思う。ひとりで抱え込んで追い詰められていく人もいるだろうけれど、支えたり支えられたりという関係性を築くことができれば、少しラクになったり、一歩前に踏み出せたりすることもある。奥の深い物語だった。2024/08/23
hirokun
245
★3 今回の作品も寺地はるなさんらしい作品で、日常の極ありふれたシーンの中に様々な感情は織り込まれている事を、さりげない表現の中に滲ませることが本当に上手な作家さんだと思う。人は生きていく中でいろんな出来事に遭遇するが、すべてを直接的に表現するわけではなく心に抱えつつ日々の生活を送っている。ただ夜散歩をする人々の間においても、直接に合い向かい合うわけではなく、同じ方向を向きながら、時には語り、時には黙ったままで歩を進めていく中で何らかの気持ちの変化がもたらされることは、誠に人間らしい営みなのだろう。2024/09/09
hiace9000
230
寺地さん初?の全編男性目線の今作。やや内省的ながら、心に「善くありたい」との芯を持つ主人公・實成冬至。彼の人柄からか、文章が奏でる(小野寺さん的)心地よいリズム感は、深夜歩きの空気感や静けさに不思議とマッチ。そこで偶然出会い、知り合う人たちが抱える、大きすぎずさりとて決して小さくもない人生の諸問題。近づき過ぎれば傷つけ、遠ければ届かない。相手との適温を見つめ、向き合い、時に動きそしてまた歩く。「誰かのように生きる」ではなく、自分の生き方を見つけようと、走るでも駆けるでもなく「歩く」。いつか月夜を信じて。2024/09/14